MASTERS OF BEEF ASSOCIATION

牛肉の新しい地平。

肉牛、牛肉の周辺「アウトルック肉用牛」20

 

和牛の歴史:トラクターの普及と和牛

―世界一の高級肉牛へのきっかけ―

 

 

学生時代のクラブ活動 OB 会に参加してきた。それはトラクター研究会、略してトラ研という。トラクターは、車等を牽引するという役割を持ち、我々はいろいろなものを牽引していくのだという「トラ研精神」なるものを振りかざしていた。当時は我が国の農業で動力耕運機が普及し、乗用型のトラクターが紹介され始めたころで、これは国内の花形産業 だった。

 

動力耕運機を含むトラクターの普及には著しいものがあり、その台数は昭和30年から 12年後には約38倍なっている。これにより、従来からの我が国の牛や馬に犂を引かせて田畑を耕す古来の方法は廃れ、それとともに農耕用の牛馬の飼養頭数は激減した。農耕用及び肉用兼用の牛(「役肉牛」(えきにくぎゅう)と称した)はこの間、59%に減少した。飼育農家数は 29%に減少した。この間に日本の農村で、牛が田畑で働く風景がほぼ消失し た。和牛の役畜としての使命は終わったのである。

 

従来の役牛は「農の宝」であり、その役目を終えると肥育され、肉牛として販売されていた。トラクターの普及により、和牛は肉専用牛として新たにその活路を切り開いていくこととなった。和牛を肉牛として育種改良するために、各地の試験場で試験研究がなされ、 農家を中心とした肉牛の能力を競う共進会が開催された。肉牛の育種改良は、歴史的に多くの和牛が飼育されていた西日本が中心であった。

 

先述のトラ研活動が盛んであった昭和41年、わが国で最初に岡山県で開催された第1回 全国和牛能力共進会のテーマは、「和牛は肉用牛たり得るか」であった。今では和牛肉は 世界一の品質を誇る高級畜産物となり、海外でも多くの Wagyu が飼育されている。 Wagyu 協会と称される組織は世界各地に存在する。現在、国産牛肉は輸出畜産物の最大品目であり、さらにおいしさに関する本格的な研究が進められている。世界で最も品質の高い黒毛和種牛肉の作出は、日本のトラクターの普及が牽引したことにもなる。

 

(全国農業新聞 2018-11-12 を改変 木村 信熙)

 

 

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