MASTERS OF BEEF ASSOCIATION

牛肉の新しい地平。

肉牛、牛肉の周辺「アウトルック肉用牛」21

 

和牛肥育期間の短縮
―技術的にも経営的にも覚悟が必要―

 

和牛の肥育期間を短縮することについて各地で試験研究が行われており、地域の行政機関などによって短期肥育技術マニュアルに沿った経営指導がなされているところもある。脂肪交雑をこれ以上求める必要はないのではないか、生産費低減のために肥育期間を短縮するのが良いのではないかとの見地である。

 

現在、黒毛和種肥育去勢牛の平均出荷月齢は29 ヵ月で、肉質の向上を期待して肥育期間が長期化する傾向にある。ある調査によると、肥育期間がある程度以上に長くなると収益性が低下するが、出荷月齢が 30ヵ月を超えると、全国平均値としては枝肉の生産費が販売額を上回る、すなわち経営が赤字になることが示されている。

 

肥育期間の短縮は、肥育における輸入穀物を主体とする給与飼料の節減効果が大きく、これは我が国の食料自給率の向上にもつながる。肥育経費は素牛代以外では、飼料代が最大の割合を占める。この肥育期間の短縮にあたっては肉牛飼育経営のうえで承知しておくべき問題点がいくつか存在する。

 

肉牛の肥育期間を短縮すると、枝肉重量が小さくなり、肉質が低下する可能性が高い。肉質の中にはおいしさも含まれている。従って肉質の低下と枝肉重量の低下を最小限に抑える新たな技術を収得することが重要である。これは容易ではない。

 

肥育期間短縮の目的は、収益性の改善である。短縮の実施に際しては、それによるメリット とデメリットの経済数値を掌握することも重要である。短縮により生産費がどれだけ低減できたか、また短縮による枝肉重量と単価の低下により販売額がどれだけ低下したか、その結果、確かに収益性は上がったか、の確認を出荷ごと、個体ごと、経営経費の集計ごとに行 うべきである。

 

安く作るが、安くしか売れない状況に陥らないために、安定販売先や手法の確保も重要で、 銘柄化、地域での取り組み、客層のねらいどころの模索も必要となる。良いものを作る和牛業界の中で、低価格生産をし、収益を高めるには新たな価値の付加が必須となる。このような技術的、経営的な問題は、肥育期間短縮の覚悟として認識しておきたい。

 

 

(全国農業新聞 2018-12-10 を改変 木村 信熙)

 

 

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