MASTERS OF BEEF ASSOCIATION

牛肉の新しい地平。

肉牛、牛肉の周辺「アウトルック肉用牛」17

 

国産牛肉と個体識別情報

―牛肉食の楽しみのために個体確認を―

 

過日、北海道十勝のある町で、友人たちと焼肉を食べた。その店は駅前の旧赤レンガ倉庫を改修したもので、地元の法人化した肉牛牧場が経営しているという。落ち着いた雰囲気で、 店員の対応もきちんとしており、価格がやや高級な割には多くのお客様でにぎわっていた。

 

特選盛り合わせを取った。ロース、ヒレ、カルビ、ランプの各種部位の牛肉の食味の違いが楽しめた。友人たちも、牛肉のおいしさが堪能できたと満足だった。意識して牛肉を味わうことは、本稿「利き肉のすすめ」(第11回)で紹介したように、おいしさにこだわる肉牛飼育経営のためにもすすめたい。

 

店員嬢に、「今日の牛肉の十桁個体番号が知りたいのですが…」と問いかけると、しばらくしてメモを持って来てくれた。すぐにその番号をスマホで「牛の個体識別情報検索サービス」 を用いて調べてみた。ロース、ヒレは別々の個体でいずれも乳用種去勢牛、カルビ、ランプは同じ個体で交雑種去勢牛、そして別注文したイチボも別個体の交雑種去勢牛だった。いずれもこのレストランの親会社の牧場で肥育出荷された牛だった。牛の由来とそれぞれの月齢もわかり、各人が自分で味わった牛肉のストーリーもかみしめた。筆者には別注文のイチボ(交雑種 26.5 ヵ月齢)が最もおいしく感じられた。いずれも和牛肉ではなかった。和牛 だと価格はさらに高くなり、その町では経営が難しいのかもしれない。

 

日本の牛個体識別制度が定着し、牛の経歴などが簡単に知れるようになって久しい。特定料理(焼き肉、しゃぶしゃぶ、すき焼き及びステーキ)を提供する業者は、お客様に聞かれたら答えるという対応では不十分であり、店舗の見やすい場所に明瞭に表示しなければならないとされている。焼き肉屋などで牛肉の番号を問うことは、慣れないとやや気が引ける。 韓国の友人によると、韓国でも同様の制度があるが、これを問うと、私の店を信用しないのか、と怒りだす店主がいるとかで聞きづらい、日本の方が進んでいる、という。

 

消費者が、牛肉の販売店や焼き肉店などで牛肉の個体識別情報を知ると、国産牛肉であることの確認だけではなく、国内の品種別、雌雄別、月齢別、地域別の食べ比べができ、広く国 産牛肉の良さと牛肉食の楽しさが再認識できる。結果としておいしい国産牛肉の消費増に つながるに違いない。

 

(全国農業新聞 2018-8-13 を改変 木村 信熙)

 

 

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