MASTERS OF BEEF ASSOCIATION

牛肉の新しい地平。

肉牛、牛肉の周辺「アウトルック肉用牛」14

 

人工牛肉の開発

―生きた肉牛は必要でない時代が来るのか―

 

牛肉消費の世界的な動向を見ると、健康上の理由、宗教上の理由で、そしてベジタリアンやフレキシタリアンなど食生活上の理由で、植物性素材を使って作られた「植物牛肉」が出始めている。味とテクスチャーは肉そっくりで、主成分は豆類の蛋白質から成り、グルテンと遺伝子組み換体、乳製品、トランス脂肪を含まないことも特長とされる。アメリカではこの ような植物牛肉の開発会社にマイクロソフトのビル・ゲイツやツイッターのビズ・ストーン などが個人的に開発資金を援助している。ある会社の所有者によると、2020 年には世界の食肉消費の 25%を植物肉にしたいとのことだ。

 

一方、「人は牛肉好きに設計された生き物であり、牛肉代用品を作るのではなく、牛肉そのものを室内で生産するのだ」として、オランダの大学では 2013 年から雌牛の幹細胞培養による、人工牛肉の開発研究に取り組んでいる。その結果、試験管育ちのハンバーガー生産に成功し、その価格は1個 30 万ドル(約 3000 万円)だという。また、アメリカで、大手の スーパーや食品会社、飲食チェーン、情報会社などが拠出した研究基金により、組織培養農業の研究が 2017 年よりスタートした。この研究の目的は、「組織培養肉」とも称されるクリーンな人工食肉を生産することである。この手法は、現在の農業の問題点とされる土地への依存、水の消費、食の安全、過剰抗生物質の問題、動物福祉の問題に対処できるものと考 えているという。

 

組織培養肉は現在、価格は別として技術的には牛肉、鶏肉、豚肉、ロブスターのバーガー製造に成功している。いずれも不定形に増殖した筋肉細胞のカタマリであり、脂肪組織、筋肉組織、それらの間にあるスジなどが形成されているものではないため、ステーキのような噛み応えのある肉ではない。ハンバーガー文化の中で増殖していく技術であろう。われわれ日本人が、シャブシャブやすき焼き、鉄板焼きなどの牛肉食文化を捨て去ると、もはや生きた肉牛は必要でない時代が来るのかもしれない。

 

(全国農業新聞 2018-5-14 を一部改変 木村 信熙)

 

 

←前のコラムへ

 

→次のコラムへ

 

→目次へ

 

 

Masters of Beef Association(MOBA)

マスターズ・オブ・ビーフ・アソシエーション